20代のフリーター時代に、住み込みでレタス農家のアルバイトを経験しました。
日本人の労働の概念は、農作業からきているのではないかという興味もありました。
牧歌的なイメージと違って、労働は楽ではありませんでした。
結論としては自分の体力の限界を知れたのと、一生の思い出になりました。
レタス農家の住み込みアルバイトの経験
レタス農家の求人は、春前くらいに出始めます。
同じ地域であっても、日給の額に違いがあります。
勤務時間に違いはあまりなく、金額が高い所から応募が埋まっていく印象です。
多分、仕事の内容に差はないと思います。
農家は個人商店なので、その家の家長次第で社風が決まります。
就労先の当たりはずれに関しては、ご縁だと思って飛び込んでください。
当たりなら良縁に巡り合えた。
ハズレなら自分を高める試練だと思いましょう。
わたしがお世話になった農家
農家は日本の家長制度が強く残っています。
わたしがお世話になった農家は、40代のお父さんが家長でした。
特に性格が悪いとかはなかったですが、わたしが採用される前にアルバイトが解雇されて追い出されたようでした。
普通の雇用主との関係を想定するより、その家の軒先を借りるくらいのつもりでいた方が無難です。
給与と住み込みの住環境
お金は二の次でしたが、わたしの頃の給料は日給で7千円台でした。
食事の支給もあるので、リゾートホテルの住み込みのバイトと同じくらいの金額です。
アルバイト専用の住居が用意されています。
わたしが割り当てられた部屋は、広めで8畳ありました。
その代わり、離れみたいな感じでフロとトイレは一度、外に出ないといけませんでした。
部屋にはテレビとチャブ台が備え付けられていたので、買い出しは必要ありません。
布団に関しては、ちょっと薄めで寝ると体がバキバキになりました。
布団に関しては人によって好みがあると思いますが、基本的に住み込みの布団は薄めの設定です。
食事に関しては母屋で、農家の家族と一緒にとります。
アルバイト仲間もいるので、食卓はかなりの人数になります。
あまり社交的でない人でも馴染むことができます。
農作業は、集団行動が苦手と悩む余力さえありません。
肉体が疲労していると、頭で悩み事を考える事が減ります。(考えられない)
商店に関しては、スーパーが3・4kmくらい離れた場所にありました。
買い出しの時は、畑の帰りに皆で立ち寄ります。
娯楽施設に関しては数十km離れていたので、滞在中に一度行っただけでした。
娯楽施設と言っても、映画館が入っている複合ショッピング施設みたいなものです。
開けた場所は畑になっているので、小さな公園さえありません。
こんな風に、仕事に専念できる環境でした。
レタス農家の仕事内容
その繰り返しです。
農業の経験はサツマイモ掘り程度の認識だったので、レタスも似たようなものだと思っていました。
しかし畑を見て、かなり広大なので驚きました。
大げさに言うと地平線まで、見渡す限り畑です。
アメリカのコーン畑とか、ああいうのをイメージしてみてください。
仕事内容は、レタスの収穫以外にもあります。
畑に栽培用のビニールを敷いたり、レタスを刈り取った後に新しい苗を植えたりします。
この一つ一つの作業を、広大な畑で行います。
収穫作業は基本、しゃがんだ姿勢です。
これで移動しながらレタスを切っていきます。
何せ畑が広いので、終わりが見えません。
収穫は早朝から始まります。
朝露で濡れるので、カッパを着ての作業ですが、隙間から入ったり汗で群れたりします。
レタスの入った箱をトラクターまで運ぶ係りになると、足場の悪い畑を何往復もします。
畑は、水はけのために波板状になっていて、普通には歩けません。
箱の重さは白菜だと15kgくらいあり、これを両手に抱えて足首をねん挫しかけながら小走りします。
苗を植える頃には日が照っていますが、高原地帯の日差しはキツいです。
すぐに日焼けで真っ黒になるし、疲労を感じるくらい日光が強いです。
午前と午後の小休憩にも、オニギリやパンが出ます。
これを食べないと体力が持たないので、普通の食事の量くらい食べます。
これとは別に、少し長めの昼休憩があり、そこでも昼食をとります。
昼寝の時間もありますが、この習慣は就職してデスクワークになっても残りました。
レタス以外にもキャベツや白菜も同時に栽培していたので、同じような作業が続きます。
体力的にキツくて、農家のおじさんの真似をしてプロテインを飲むようになりました。
スポーツジムと違って実戦で身につける筋力なので、身のこなしはよくなりました。
農作業の労働時間
早朝、日が出ない内から作業をします。
朝4時台から始まり、夕方5時とかまで作業が続きました。
レタスなどの生育次第なので、人の都合で時間を変えたりできません。
生育が悪かったり、大雨を避けるために短めの日も少しはありました。
ですが基本的に、1日の労働が終わるとヘトヘトに疲れて、食事をして寝るような毎日でした。
休日については説明を受けていなかったので、アルバイトを始めて1週間くらいで
(明日あたり休日かな?)
と思っていましたが、何週間経っても日曜日を素通りしていきました。
結局、はじめての休日は1ヵ月ちょっと経ってからでした。
これについて不満に思う事はありません。
農家の人たちも一緒に畑に出て、作業をしていたからです。
それだけでなく、アルバイトが上がった後に再び畑に行って、農薬散布などの作業をやっていました。
農家のお嫁さんは、農作業・子育て以外にアルバイトの食事の用意まであります。
間違いなく、わたしよりも働いていました。
後にデスクワークで徹夜の作業をした時も、農業のアルバイトを思い出すと苦になりませんでした。
そういう貴重な休みに、農家の人は地域の運動会に参加をしていました。
ものすごい体力です。
レタス農家は大変な仕事
農業は儲からないイメージがあるかも知れないですが、その村の平均年収はかなり高かったです。
作業が画一化されていて、少品種を大量に扱っているので効率が良いのだと思います。
レタスは需要・商品力のある作物で、痛みやすいので海外製品との競争もありません。
しかし、広大な土地が必要なので民家は少ない為、商店もほとんどありません。
農家はお金を稼いでも使う場所がなく、一年の内に半年くらいは大勢と生活を共にしなければなりません。
彼らに仕事とプライベートの線引きはできていたでしょうか?
わたしなら年収3分の1でも、都会の生活を選びます。
ブラック農家と報じられる
わたしが住み込みの経験をして、しばらく経ってから村がメディアに取り上げられました。
『平均年収2500万円の村、外国人実習生に過酷労働を強いるブラック農家?』
といったような見出しです。
年収で嫉妬心を煽り、最後に『?』という、ズルい見出しに思います。
発端は実習生が書いたとされる投書が、なぜかアメリカ大使館に送られた事からです。
・不衛生な宿舎
・他のグループと交流禁止
これらに関して、実際に経験した観点から意見を言います。
・・・罰金徴収
深夜の外出や実習生を示す帽子を脱いだりしたら、班長に徴収されるとの事。
弁護士が実習生達に聞き取りを行うと、そこでは確認できませんでした。
農家の人達は、自分たちの家族より多い研修生を敷地に住まわせるので、恨みを買うような事は避けると思います。
わたしは住んでいて、そういう意識を感じました。
罰金のルールはあったのか?
記事では罰金のルールが明示されていないですが、あったとしても田舎道にあるような
『ゴミのポイ捨て 罰金10万円』
レベルのものだと思います。
徴収したとされる班長ですが、送り出し機関の依頼で、農作業をしない人が村に2~3人派遣されるとのこと。
日弁連は、ルールが班長に悪用された可能性があると述べています。
不衛生な宿舎
これは各農家によって異なります。
わたしが行った農家は、母屋とは別の戸建てが宿舎でした。
その中でわたしは更に離れの部屋だったので、静かで快適でした。
風呂・トイレは共用ですが、掃除は当番でやっていたし、特に汚すような人はいませんでした。
告発した人の宿舎が、築年数が古くて汲み取り式トイレだった可能性は否定できません。
ただそれが、村全体の事と扱われるのは違和感があります。
・・・搾取の構図ではない
年収2500万円が見出しの冒頭に置かれると、農家を悪代官のようだと先入観を持つ人が居ます。
しかしレタス農家は、貴族のようにお茶を飲み、プランテーション奴隷に作業させるような構図ではありません。
前述の通り、わたしたちが働き終わって、宿舎に帰って夕飯まで横になっている間に、農家のおじさんは畑に農薬散布、おばさんは食事作りをしていました。
嫉妬の構図
記事は、村の平均年収2500万円というのが前面に出されていました。
お金に関する嫉妬は、非常に強い攻撃性があります。
このブログでは学歴や職歴に難があっても、終わりではないという事を知ってもらうために書いています。
しかし年収や株式投資の事を書いたら、
『金の事なんて書くな!』
とSNSで敵意を向けられて驚きました。
嫉妬は自身の発奮材料に使うべきで、他人にぶつけて浪費するのはもったいないです。
農家に感謝
日々、食べるものに対してありがたみを感じられるのは、大変さを経験したためです。
感謝の気持ちを抱くと、自分に何か良い事があったと思えます。
その気持ちは、日々の小さな選択に好影響をもたらし、無意識のうちに良い気分を維持する正解の選択をするようになります。
わたしは食卓で野菜をみるだけで、重労働なく食べられる事をありがたく感じます。
住み込みの経験のおかげで、そういう良い習慣が生まれました。
そして半年近く満期で働いて自信をつけて、都会での就職活動に弾みをつけました。
住み込みの終わりは切ない
収穫シーズンが終わると、仕事が減って休みが増えます。
その頃になると、夕方の風が急に冷たくなってきて、終わりを予感させます。
住み込みのバイトは、全員がいっぺんに帰るのではなく、徐々に減っていきます。
スタンド・バイ・ミーのラストみたいに、一人また一人と去っていく感じです。
わたしは割と早めに去った方なので、その後の仕事はあまり知りません。
畑の整備とか、来年の準備などかなと思います。
その村の事は、今でも思い出したりするので、故郷の一つみたいになりました。